「日本の風土を詰め込んだビール」を造ると言うコンセプトのもと、かたちになったのがこの「国産麦芽ビール」です。
麦は100%国産麦芽だけを使用する。しかしそれだけではなく、私たちはそこに日本のビール醸造の文化と技と言った日本的センスを加えたいと思いました。
日本の風土が太古から育んできた米。日本酒はこの米を原料に醸してきた事から、先人たちにとってビール原料に米を使用する事は極自然な事だったでしょう。日本でビールが作られるようになってから、原料に米を使用してきた事自体を私たちは日本のビール文化と捉え、それをこのビールに込めたいと思いました。
日本の風土で育った麦に、秋田で10代続く米農家「作右衛門の米」を加え醸した「国産麦芽ビール」。「優しい味わいの中、芯に強さを感じる・・・」そんな設計イメージで開発がスタートしました。
「国産の麦は外国産の麦に比べかなりの手入れが必要」
こんな想いを抱えつつ、醸造者は一種の覚悟をもってこの醸造に挑みました。
「国産麦芽は、しっかり面倒をみてやらないと、いいビールにならない。だから麦自体の持つ力をフルに引き出す為の手入れが必要」。「まず麦を知る事」。
ここから始めて、どうやったら麦自体の持てる力を全て出してやる事が出来るのか。どのようにしたら酵母が喜ぶ麦汁を得られるか。こんなふうに心をかけながら、ビールの命である麦芽の糖化を進めていきました。酵母も初めて出会う国産麦芽です。酵母の顔色を見つつ約2か月間発酵を見守りました。
手入れと言うのは手助けをすると言う意味と、気を抜かず磨いていくといく二つを意味します。
「日本で育った君たちが、皆さんに可愛がってもらえるように」、
「その為には、手入れを惜しまないよ」と、 醸造者はビールに語りかけるのです。「国産麦芽ビール」は、このように慈しんで醸されました。
原料 | 100%国産麦芽・第10代作右衛門産あきたこまち米(秋田県仙北市) |
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製品 | ラガータイプ 1本 330ml |
麦純粋令によりドイツには米を使用したビールは存在しません。それは、ドイツでは、麦はとれたけれども米はとれなかったという事もひとつの要因でしょう。稲作が根付く文化も環境もなかったという事です。 だから勿論、ドイツには米を処理する釡は存在しません。
「国産麦芽ビール」は日本の風土を醸す為に、専用の釡を特注で造り、それを製造設備に組み込ませたブルワリーで醸造しています。麦の糖化と米の糖化の条件は全く異なりますので、釡を分離して糖化条件を緻密にする事が米を原料にしたビールにとっては不可欠です。この米の糖化釡は「国産麦芽ビール」を醸す為に必要不可欠で、且つとても大切な役割を果たします。
ビールは鮮度が命、こう言われます。
空気に触れる程に劣化が進む、これがビールの宿命です。そうであるならば1本1本発酵タンクから直接詰める、これが最上と考えます。自動ラインで詰めるとなると数千本から数万本の充填数が必須です。これで作業は効率化されますが、このストックを消化するのに時間を要するならばビールの鮮度は保てません。
「国産麦芽ビール」の醸造所は、鮮度を保つ製造数にこだわっているブルワリーです。手間はかかりますがミニマム量の製造をする事で鮮度を保ち、そして詰め貯めをしないと言う事にこだわっています。注文頂いてから詰める、当たり前のようで実はなかなか出来ない一見、非効率的な事も品質や鮮度を重視するならばあえてする、「国産麦芽ビール」はこんな実直なブルワリーから慈しんで皆様のお手元に届けられます。
日本人初の女性醸造家。発酵食品の微生物研究所を経て1998年設立時からビール醸造士に。以後キャリアを積み重ね今年で醸造歴19年。国内のコンクールに拘って出品を重ね、日本で最大の酒類コンクールである「全国酒類コンクール(全日本国際酒類振興会主催)で、初出品後1度も欠かす事なく入賞を重ね2016年秋季で22季連続入賞を果たしている。
創業当時から「酒は風土を醸すもの」と言う理念のもと、女性の感性で醸し場の風土をビールで表現している。
代表作に、秋田固有の酒米 秋田酒こまちを使用した「悠久」(2013年三越伊勢丹オンリーMI)、新月に仕込み始め田沢湖の湖面に反射する満月光を浴びながら熟成期に入ると言う月暦に従って醸した「月守の醸し」(2014年三越伊勢丹オンリーMI)等。他、風土を込めたオリジナルビール多数。
「日本たらしめる美しいビールを作りたい」これが私の最大のテーマでした。日本たらしめるとは、日本の大地で育まれた麦、更には米を使用する事、そして造りに日本人の感性を込める事でした。米を使用したビールの仕込みは時間もかかり、技術的なノウハウも必要です。米によって糖化条件も変えなければなりません。
「国産麦芽ビール」にこのような難しい工程をわざわざ組み入れたのは、米を使う事による日本の精神性の表現と、味わいや色等に対する米の仕事のうるわしさをおわかり頂きたかったからです。「美しいビール」とは、精神や味覚において日本人独特の繊細な感性を表現すると言う事でした。一人の日本人として、また女性としての感性を大切にして、まるで絹布を織るように大切に丁寧に仕上げたビールです。
皆様とこのビールが、ゆっくりとでも深いかかわりを造り、心の安らぎや喜びの友とならん事を願います。
醸造家 関口 久美子